私の在宅医療(往診)のルーツ8

 上を向いて溢れる涙を堪えようとしても、次々と頬を伝ってきた。こうしてタクシーは実家の前に着いた。タクシー代を払おうとすると運転手さんが「松林先生のお孫さんからお金をいただくことはできません。あのとき母の命を救ってくださったせめてものお礼です」と受け取ってくれなかった。
 僕はタクシーを降りて「有難うございました。なんかとってもいいお話を聴けて、祖父にも会えたような不思議な気持ちです。と感謝を述べ、門に向かった。門の手前でふと背中に視線を感じ振り向くと、なんと運転手さんがタクシーを降りて深々とお辞儀をされているではないか。僕もお辞儀をして30秒くらい見ていたが微動だにせずお辞儀のままだ。僕はふたたび涙が溢れてきた。
 なんということだろう、この運転手さんは祖父と私を引き合わせてくれただけでなく、人の心や魂は時を超えて生き続けていることも教えてくれた。透き通った気持ちの触れ合いと、人間はなんと素晴らしい感謝の気持ちを持ち続けられるのかという感動だった。
 僕は玄関の扉を開けながら最後にもう一度振り返った。   つづく