私の在宅医療(往診)のルーツ

その5

「ドクター松林の待ったなし」

「私の在宅医療(往診)のルーツ」その5

こうして黄昏時の広島空港のロビーを出て、タクシー乗り場に向かったが幸い人はほとんど並んでいませんでした。夕暮れ時の広島はとにかく美しい。こんな美しい街に1945年原爆が落とされて廃墟と化しました。人間の未熟性の結果なのかもしれませんが、よくも20-30年でここまで復興できるとは誰が想像したことでしょう。

タクシーにはすぐに乗れて、場所を告げたのですがいつもは自宅を説明するのに「千田町の日赤の近くまでお願いします。」と言うのですが、その時はなぜか初めて「千田町の松林医院までお願いします。」と言ってしまいました。生まれて初めてのことでした。ついそう口に出てしまった。

いきなりタクシーの運転手さんが僕の方を振り向き「千田町の松林医院ですか?」と驚くような顔をして聞き返してきたのです。僕はまずいなうちのような零細医院を知っているわけはないし、怒られてしまった、気分を害してしまったかなと思い言い直しました。「すみませんわかりませんよね?千田町の日赤の近くにお願いします。」ところがその運転手さんは「松林先生のお宅はよく存じております。忘れるわけはありません。しかも先生のお宅に足を向けて寝たこともございません。」と言ってきた。私は驚きとともに狐に包まれたような感覚に陥りました。 

つづく