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「幽霊タクシー」に乗ったことがありますか? その1~4の4回長編合併号 2015.8.7・2015.8.21・2015.9.4・2015.9.14一挙連続

 それは十数年前の暑い夏の夜の出来事。私は会議の後、ほろ酔い加減でタクシーを拾った。その運転手さんは、突如奇妙なことを話し始めた。

(タ)「お客さん、ちょっと話を聞いてもらっていいですか」
(私)「ええ、どうぞ」
(タ)「実は私、ついこの前まで幽霊と一緒に住んでいたんですよ」
(私)「えー、いったいどういうことですか」
(タ)「10年くらい前に引っ越したアパートなんですが、夜カーテンの間から女性の幽霊が出てきたんです。いやー、初めは私も怖かったですよ。でもね、女房に先立たれて子供も身内も居ないんで、私もさびしくてね。思い切って幽霊に話しかけてみたんです。そうしたら会話ができて、毎晩話すのが楽しみになってきて、だんだん出てこない晩があると、さみしくて仕方なくなってしまいました」

 私は酔いもさめ、手に汗を握りながらそのタクシーの運転手さんの話に引きずり込まれていった。(つづく1/4)

(タ)「でもね、お客さん、ちょっと事情があって、そのアパートを引っ越さなければならなくなったんですよ。いやー寂しくてね。せっかく友達になった幽霊と離れ離れになると思うと。
(私)「それで引っ越したんですか?」
(タ)「ええ、3か月前にね。その時に不動産屋に電話しましてね。一応伝えておいたんです。この部屋には幽霊が出ますよと。そしたら不動産屋のひと怒っちゃって、電話切られました。いい加減なこと言わないでください、とね」

 その晩は暑―い夏の夜だったが、なんだかゾクゾクしてきた。(つづく2/4)

(タ)「そしたら昨日突然、その不動産屋から電話がかかってきたんです」
(不)「○○さん、先日は怒ってしまって大変申し訳ありませんでした。やはりあの部屋には幽霊が出るみたいです」
(タ)「はあ?いったい何があったんです?」
(不)「○○さんが引っ越したあと、あの部屋に二人入居されましたが、二人とも1週間もしないうちに出ていかれました。一人目の方は、幽霊が出る部屋なんか案内しやがって!と、とてもお怒りでした。二人目は幽霊とは思わず、すぐに警察を呼んだそうです。警察が来ていろいろその部屋のことを調べてくれたところ、以前その部屋で若い女性が首つり自殺をしたことがわかったんです。」
(タ)「はい、知ってますよ、××子さんでしょ?」
(不)「ええっ!なんで名前まで知っているんですか?」
(タ)「だって本人に聞きましたから」
(不)「そこでお願いがあります。○○さん、家賃安くしますから、またあの部屋に住んでいただけないでしょうか?お願いします!」
(タ)「はっきり言って、いま私の心は揺れています。その部屋に戻って、また幽霊と楽しい毎日を過ごすかどうか」
と、運転手さんは僕にそう話した。(最終回へとつづく3/4)

タクシーの運転手さんが話終わったとき、ちょうどわたしの家の前に着いた。すると、
(タ)「お客さん、着きましたよ。いやー、私の話を聞いてくださってありがとうございます。お代は結構ですから」と言われた。
(私)「いえ、とんでもない。ちゃんと払います」
(タ)「こんな私の話を真剣に聞いてくださったので、どうか気持ちだと思って」
と言われて仕方なく支払わないままタクシーを降りた。外は蒸し暑かった。タクシーは暗闇の中を陽炎のように走り去っていった。
 私は今聞いた話を考えてみた。もし、あの話が嘘だったとしたら?でも話が真に迫っていて、とても嘘とは思えない。しかも、嘘の話を聞かせて客の反応を見て楽しむにしては、若い女の子ならまだしも、私なんかは最も向かない客だ。しかもタクシー代をタダにしてくれた。嘘話をしてそんなことをするとは到底思えない。「あー、もしかしてあのタクシー。。。」と軽い確信に至った。
 私は家までのタクシーのレシートすら持っていないことに気付いた。家までどうやって帰ってきたか誰へも証明できない。私は空を見上げた。星が暑さのためか、ボヤーっと輝いていた。とにかく蒸し暑い夜だった。(完/4)

※ この話は私が経験した事実に基づいて記しています。ただ、少々記憶が曖昧な部分があることをご了承ください