2020年東京オリンピック

 ついに東京オリンピックが来る。僕が3歳だった1964年以来のことだ。はっきり言って前回のオリンピックのことは全く覚えていない。まだ覚醒していなかったのか、広島の田舎に住んでいたからかはわからないが、僕にとっても初めての経験と言っていい。正直決まるまでは、周りの人たちも「道が混むのではないか」とか「治安が悪くなるのでは」といったネガティブな意見も聞かれた。しかし、決まった後はついぞそういった意見を聞かなくなった。
 思えば、戦後の混乱した日本に、成長の起爆剤を与えてくれたのが前回の東京オリンピックだったのかもしれない。このイベントを境に日本は高度成長時代に突入する。新幹線・高速道路などが次々に建設されて、物流も進み、みんな猫の手も借りたいほどの忙しさ。働けば働いただけ給料や収入が増えていく。そうすれば、おいしいご飯にありつけるばかりか、新しい車に買い換える、果ては家を建て替えるまでに行き着く。郵便局に10年貯金しておくとちょうど倍になって返ってくる。そんな成長が豪快で単純明快な時代だった。
 私の実家は内科開業医だったが、大晦日の午前中まで仕事、その後に大掃除、夕方から母親はパーマをかけに行き、一家団欒で紅白を観て、除夜の鐘を聴きながら年越しそばを食べて、「あけましておめでとう」と言うまでノンストップで事が運ぶ。その代わり正月3が日は一軒たりとも商店は開いていない。せっかくお年玉を貰っても、僕たちは1月4日まで待たねばならなかった。
 でも、子供にとっては呑気な時代だった。大人たちは忙しすぎて子供に手をかけることができなかった。塾もない。学校の宿題だけきちんとやって、後は外に出て朝から晩まで遊びまくる。家に帰るのは昼飯と夕飯時だけ。今のように携帯も時計も持っていないから、頼るのは腹時計と太陽、そしてカラスの鳴き声。それなりに素晴らしい時代だった。