街をぶら歩き ー長崎市編

 太った老婆のちゃんぽん屋を横目で見ながら、僕たちは奥の細道のような飲み屋街に進んでいった。入ってすぐ左手に興味深い看板を見つけた。「郷土料理、居酒屋」なんとなく惹かれるものがあったので、直感でその店の暖簾をくぐる。
 入った瞬間僕はまわれ右をして後輩に「出よう、この店は」と小さい声で言った。が、時既に遅し「お客さんいらっしゃいませ。どうぞあいてる席へ」という甲高い声が響いた。あいてる席?客は一人もいないのだが、右手の座敷に一人おばさんの従業員が寝ていて、この門番のようなおばさんに呼び止められたのだ。
 仕方ない勘もはずれることはある。1杯だけ飲んで出よう。と、あきらめて座敷に座る。
 厨房の奥からもう一人おばさんが出てきて、「今日はね旨い梅酒がお勧め。」じゃあそれをと言われるがままに頼む。次々と自慢の郷土料理を勧められてなんとなく、じゃそれもと完全に主導権は奪われた。まあそこそこ美味いが70点くらいの料理、つまみである。
 「あんたたちは、東京からでしょ。」と言われ「ええ、仕事で」そのうち気づいたらレーザーディスクばりのカラオケで演歌を歌っていた。おばさんの身の上話が始まり一通り聞き終えたらもう3時間もたっていた。
 「そろそろ、帰ります。」と言うと「また来てね、長崎に来たら。」と名残惜しい言葉をかけられ店を出た。星0.5というところか。でも旅情を感じながら、僕たちはまた何が待っているかわからない奥の細道を登っていった。
 キタナシュランの星0.5くらいの店を後にして、私たちは飲み屋横丁の坂を登っていった。高円寺に似ているが、よりもっと神秘的な雰囲気が漂う。もうお腹いっぱいなので単純に飲めるところを探した。
 坂を登り左にカーブしたところに、ぽつんとちょうちんの光が見えた。「焼酎バー」と書いてある。おもしろそうだ入ってみよう。
 暖簾をくぐると10畳くらいのスペースに立ち飲みとテーブル席がある。私たちはテーブルに座りメニューを見た。九州産の芋焼酎そして米や黒糖、麦もある。東京で見かけない芋の銘柄を水割りで頼んだ。うまいよ。30代のやるきまんまんのマスターがもくもくと仕事をしている。気持のいい店だ。余計なものは一切省いたストイックさが気に入った。
  そうこうしていると既に3時を回っていた。もう帰ろうと言って店を出る。来た道を戻るとあのちゃんぽん屋の太った老婆は、こんな夜中だというのに数時間も前と同じ椅子に同じ恰好で座っているではないか。そしてこちらをやぶにらみした。
 これは運命だ本場の長崎ちゃんぽんを食べてみよう。ほぼオープンな店、屋台に近い。ちゃんぽんを頼む。うん?あまりおいしくない。酔っているせいか、腹いっぱいのせいか。ちょっとがっかりして店をあとにして大通りに出た、爽やかだ、街は明け方に近いというのに活気に満ちていた。おいしそうな豚まんを買って帰った。
 次の日昼飯でちゃんぽんにリベンジ。他の店に入り頼んだ。?あまり私の舌には合わないようだ。普通の九州とんこつのほうがいい。タクシーに乗っているとチェーン店「リンガハット」をみつけた。タクシーの運転手さん曰く、「あれはちゃんぽんではない。作り方も全く違う。」なるほどちゃんぽんは深い、次回再チャレンジを誓った。
 古く歴史あり、情緒豊かな街、食の文化も深い、あの細道の奥には何があるか今でも気になっている。